長岡生コンクリート

2023/03/21

「あなたや僕は一体誰に評価されているのか? 評価と評判の違いと求められる産業システムのあり方について」(考察)

唯一絶対の評価者Markt(市場と顧客)を出発点とし、評価にさらされるProcuct(製品やサービスなど価値)を生み出す組織(Shop/Factory/Lab/Office)構造。経済循環の中で誰もがそのいずれかの役割を果たし互いを尊重することで成果を生み出すことを期待されている。

Market/Product/Shop/Factory/Lab/Office

働く、仕事とは一体なんなのか。評価と評判の違いとは。どのようにして経済は循環し、個人の暮らしは成り立っているのか。組織が大きくなればなるほど霞んでいく一人一人の役割や果たすべき責任。例えばあなたがLab(技術研究)に携わる人だったとして。そして僕はFactory(製造)生まれた技術を実際に形にする役割を果たす人だとして。建設・コンクリートに焦点を当てた経済循環についてのコラム。

①唯一絶対の評価者

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オワコン(造粒ポーラスコンクリート)が納品された(売れた)現場。

建設・コンクリートに限らず、経済循環は製品やサービスが「売れる」ことによって循環が始まる。「売れる」ためには、その生み出す価値が「買う」人の願いを満たす(評価される)必要がある。一方、現在の建設・コンクリートの「評価する」という行為は一体誰がおこなっているだろうか。あなたや僕がコンクリートを必要とし評価してそのことでコンクリート産業(Factory)が生み出した価値は実装されているだろうか。

誰しも知るように、建設、とりわけコンクリートに関して評価する主体はあなたや僕ではなく、発注官庁といった大型組織がおこなっている。いわば、市場と顧客(あなたや僕)の代理業務を公共機関がおこなっているということができる。つまりニーズは直接的なものではなく、間接的に価値を生み出す組織構造にもたらされ、組織構造(産業)はそれに対して成果を生み出す構造(ピラミッド型の産業ヒエラルキーという形をとっている)。

②本当に必要なコンクリートは売れている?

高流動コンクリート

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高流動コンクリートはコンクリート工事の省人化が期待され数十年の歴史を持つ技術ではあるものの現在に至るも汎用的な製品とはなっていない。つまり、一般化されていない。https://concrete-mc.jp/high-flow-concrete/

再生骨材コンクリート

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40年の歴史を誇る再生骨材コンクリートが実装される(一般化する)ことの必要性に議論の余地はない。にもかかわらず、高流動コンクリート同様、今の所市場と顧客Marketの評価がされていない(売れていない)のが現実。https://www.tateishi-kk.co.jp/aboutrcon.html

こうした必要とされる製品が売れないことを述べることで特定の担い手の努力を批判する意図がないことをあらかじめ断っておきたい。本稿では現在の現実が求められている理想と程遠い(必要とされる技術が果たして必要なところに届いていない)ことを誰か特定の主体の責任とする立場ではなく、そのようになっていない現実を経済循環の構造に原因があるとの観点から考察している。

③エンジニア(Lab)と工場長(Factory)の関係

例えば自動車メーカーを例えに用いると、仮にエンジニアと工場長(ファクトリマネージャー)の関係が良好でなかったらどうだろう。Labで設計された図面を一瞥した工場長が「こんなものは作れない」と突っぱねる。例えるならば現在の建設・コンクリート産業はセクショナリズムが横行し分断され循環が妨げられているとすることができる。

専門メディアで称えられている「高性能」「最先端」とされるコンクリートは上述の例にもれずいずれも世界の景色を変えることができていない(一般化されていない)。一般の生コン工場で一般的に製造されている大半のコンクリートは18-8-20(BB)や21-18-25(N)など数十年変わることのない顔ぶれとなっている。ニュースや新聞でもてはやされている先端のコンクリートは紙面を飾るだけで現実の世界で僕たち当事者の目に触れることは絶えてない。

この理由はLab(技術開発)の主体である大学や研究所とFactory生コン産業の分断に理由を見出すことができる。高流動コンクリート開発秘話(参考:https://youtu.be/xzraVxUJ2Xc)「生コン工場不在の技術開発」にも見られるように、そのアイディアが生まれたその場所にFactory(工場長)がいないのだ。仮にあなた(工場長)が自分の知らないところで生まれたアイディアを一方的に「作れ」(Factoryの役割)と指図されたらどんな気分になるだろう。工場がエンジニアの思いのまま動いていない例は建設・コンクリート産業の隅々に至るまで枚挙にいとまがない。

④独占禁止法適応除外という異例の条件

LabとFactoryの分断は互いが互いに性格が悪いとか個性や性質を理由とするものではない。我が国は諸外国と違ってコンクリート産業の秩序は独占禁止法適応除外(カルテル)という得意な形式をとっている。本来は市場と顧客を出発点として組織体は成果を生み出すべく躍動するところだが、コンクリート産業に関してはつまり「自らを出発点とすることを許されている」とすることができる。そこでは顧客の都合ではなく自分たちの都合を優先しやすい。総合評価においてゼネコンが使いたいコンクリート(例えば上述の高流動や再生骨材)は工場側からすると「知ったこっちゃない」とこうなる。「(市場と顧客ではなく)組合から仕事は割り振られるのだから、いつも製造している楽な生コンを練りたい(ややこしい生コンを製造したくない)」というわけだ。我が国特有のこうした事情からFactoryとLabの分断はさらに深刻なものとなり、果たして本当に必要とされているProductは日の目を浴びることなくコンクリート産業は70年を迎えようとしている。

⑤インターネットとオワコンの例

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一般の方が生コンビニDiyでオワコンを注文し自ら荷下ろし、施工まで行っている。

一方、ここ数年の変化としてこれまで述べてきた経済循環とは異なるコンクリートの流通を見ることができる。当社ら生コンポータルではインターネットを通じて市場と顧客(家周りのぬかるみや雑草をなんとかしたいと願っている)に直接自らの価値(オワコン、オコシコン)を訴求する手段を講じている。これまでコンクリートなど建設資材の評価は公共機関が代理を行なってきたことに比して異例の流通だ。そこには業界都合の1時間30分の壁や協同組合といった産業サイドの都合はなく、「欲しいから買う」「求められているから売る」という単純な構図がある。つまり、市場と顧客を出発点とし、流通(Shop)や産業(Factory/Lab/Office)など各地の施工店や生コン工場がそれに応えている。

⑥建設・コンクリート産業もMarketを出発点に

現在現実の発注形態は市場と顧客の真の代理を務めることはできていない。産業の循環のみならず、発注機関やゼネコンなど組織内にも分断が生まれ、それぞれの立場を優先しナワバリが生まれることで必要とされる価値が必要な場所に届くことが妨げられている。数十年もの歴史を数える必要とされることに議論の余地のないコンクリートが売れていないことがその証拠だ。今後も数多くの製品が開発され発表されることだろう。そして、そのいずれもが売れることなく、組織の中で価値を生み出そうとした個人の努力は報われることはない。特許の出願数だとか論文の業界内での評判だとか、本来の市場と顧客の価値とは似て非なるものに、一喜一憂するだけの職業人生を閉じることになる。

あなたや僕が技術者(Lab)であれ製造者(Factory)であれ、商社や施工者(Shop)や事務方(Office)だとしても、互いに分断状態である現行の産業構造では成果は生み出しにくく、その努力も報われにくい。今必要なことは、市場と顧客を出発点に、製品や技術など個別のあり方ではなく、価値を届けるまでの仕組みそのものを刷新することであることは、インターネットを通じた当社らの足跡を振り返る想像される。

⑦一般のニーズがダイレクトに反映される発注形態

例えば陪審員制度が導入された法曹界のように。建設・コンクリート産業にも一般の声が反映されるようなあり方は模索できないだろうか。特定の組織が独自のプロセスで意思決定を行うのではなく、市民の創発として生まれたプロセスによって発注される橋やビルやダムや空港。複雑系、自己組織化、自立分散など、これまで上位下達の縦割り分断を前提とした経済システムではなく、有機的で辺境がそれぞれ眼前の変化や機会に応じて自らの姿を変える発注形態。

あなたの役割がLab(技術開発)であれ、Shop(施工や流通)であれ。現行の産業構造でおとなしく行儀よく前例踏襲を続けていくのだとしたらその努力は永遠に報われることはない。現行のシステムではせいぜい「良い歯車か回らない歯車か」程度の評価しか受けることはないだろう。つまり、あなたや僕の努力は特定のあくまで主観的なその人の好きか嫌い、つまり直属の上司(あるいは特定の元請け)のお眼鏡以外に晒されることがないからだ。直接市場と顧客の審判を受ける機会を見出すことがないから。

唯一絶対の評価者は市場と顧客。どんな局面でもこの原則を忘れず、現代のテクノロジー(インターネットや人工知能)を目的ではなく手段としてきちんと利用し、分断ではなく統合(Factory or Lab から Factory and Lab などそれぞれが互いに尊重し合う)された産業構造こそ、市場と顧客に評価されるアウトプット(Product)を生み出す唯一の方法であるはずだ。

⑧SDGs、資源循環、脱炭素...現代の要請に応える

評判ではなく、現代の要請(市場と顧客の願い)に応える。現代のキーワードを「国連が言ってるから」「会社が社是として打ち立てたから」ではなく、自らの内側から湧き出てくる衝動(創造的衝動)と同期させ、これまで述べてきた経済循環・システムを意識しながら(全体俯瞰)、自分自身が果たしうる貢献に集中する。地位や名声(評判)は全ては本質を見つめる目を曇らせるまやかしだ。市場と顧客はあなたや僕に何を求めているかを常に意識し、自分が心から求める声に従って、日々の仕事に従事する、働く。

いつの間にか20年以上もの歳月を費やした建設・コンクリートに携わるすべての人が新しい経済循環・システムの中で生き生きと仕事に従事する、働く。そんな世界を作り出せるのは、あなたか僕か、ではなく、あなたと僕と、すべての人たちがそれぞれの役割に邁進できる創発的な空間の中にしか生まれないことだろう。

全てはあなたや僕のこれからの仕事にかかっている。



宮本充也

宮本 充也

主な著者
宮本充也

危険物取扱責任者(乙4)/1級(舗装・造園・建築・土木)施工管理技士/コンクリート主任技士・診断士

毒物劇物取扱責任者/日本農業検定(1級)/エクステリアプランナー(2級)/運転免許証(大型・中型)

勉強中の資格:採石業務管理者/2級FP技能士